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Essay

文化庁 平成27年(2015年)度 新進芸術家海外研修 調査報告

メディア芸術分野:映像 /デジタル・アーカイブ
コイシミキ | Miki Koishi

1. 調査研究の目的

現在、国内外の美術館や芸術教育機関が、それぞれ独自の方法で芸術分野の映像アーカイブの公開や保存を進めている。国内においてはアカデミックな議論は増えてきた一方、実際にメディアや機器を扱い実務を担当するデジタル・アーキビスト同士が知見やノウハウ、問題を共有する機会や交流の場は少ない。

本調査研究では、デジタル・アーカイブを先駆的に取り組んできた美術施設や関連機関が集合するニューヨークにて、各施設の実務担当者を訪ね、芸術分野のデジタル・アーカイブの現況、問題点、今後の課題や計画について、過去の事例や未来のデジタル・アーカイブの可能性や予測とともにインタビューを行い、国内のデジタル・アーカイブ化に活用するための調査を行った。

施設によっては、デジタル・アーカイブを扱う部門が複数あること、また、デジタル作品の保存や修復を行うメディア・コンサベーション部門がそれに関するプロジェクトを担当していることも多いことから、デジタル・アーキビスト以外の方々にも積極的に話を伺った。

2. 調査研究日程

2015年10月16日(金)
The Museum of Modern Art (MoMA)
25 w 53rd st, New York, NY 10019
Ben Fino-Radin(メディア・コンサベーション部門 アソシエイト・メディア・コンサバター)
Shannon Darrough(デジタル・メディア部門 ディレクター)
Michelle Harvey(ミュージアム・アーカイブス部門 アーキビスト)
Jennifer Sellar(イメージング・ビジュアル・リソーシズ部門 シニア・デジタル・イメージ・アーキビスト)

2015年10月19日(月)
The New York Public Library for the Performing Arts
Jerome Robbins Dance Division, Moving Image Archive
40 Lincoln Center Plaza, New York NY 10023–7498
Tanisha Jones(ディレクター)

2015年10月19日(月)
Rhizome
The New Museum, 235 Bowery, New York, NY 10002
Dragan Espenschied(デジタル・コンサバター)

2015年10月20日(火)
NYU Tisch School of the Arts
Department of Cinema Studies
Moving Image Archiving and Preservation Program (MIAP)
721 Broadway, Room 626, New York NY 10003
Dan Streible(ディレクター)

2015年10月21日(水)
Whitney Museum of American Art
99 Gansevoort Street, New York NY 10014
Dina Helal(エデュケーション・リソーシズ部門 マネージャー)

2015年10月21日(水)
Eyebeam
34 35th Street, Unit 26/5th floor, Brooklyn, NY 11232
Erica Kermani(コミュニティ・エンゲージメント・ディレクター)
David Borgonjon(プログラム・コーディネーター)
Billy Dang(クリエイティブ・テクノロジー・マネージャー)
Hellyn Teng(コンピュテーショナル・ファッション・プログラム・コーディネーター)
Roddy Schrock(ディレクター)

2015年10月22日(木)
Whitney Museum of American Art
The Frances Mulhall Achilles Library
610 W 26th St, New York, NY 10001
Tara Hart(アーカイブス部門 マネージャー)

2015年10月23日(金)
Electronic Arts Intermix (EAI)
535 West 22nd Street, 5th Floor, New York, NY 10011
Rebecca Cleman(ディストリビューション・マネージャー)

2015年10月26日(月)
The Metropolitan Museum of Art
1000 Fifth Avenue, New York, NY 10028
Neal Stimler(デジタル・メディア)
Jennifer Phoenix(タイム・ベイスド・メディア・デジタル・アセット・スペシャリスト)
Robin Schwalb(メディア・プロダクション)
Time-Based Media Working Groupメンバー
Hwai-ling Yeh-Lewis(東洋部門 コレクション・マネージメント・コーディネーター)
Alison Clark(東洋部門 コレクションズ・マネージメント・スペシャリスト)
岡みどり(東洋部門 日本美術リサーチ・アソシエイト)

2015年10月27日(火)
The New York Philharmonic Leon Levy Digital Archives
Avery Fisher Hall, 10 Lincoln Center Plaza, New York, NY 10023–6970
Barbara Haws(アーキビスト/ヒストリアン)
Mitchell Brodsky(デジタル・アーカイブス・マネージャー)
Gabryel Smith(デジタル・アーキビスト)

2015年10月28日(水)
The Museum of Arts and Design (MAD)
2 Columbus Circle, New York, NY 10019
Carson Parish(AVコーディネーター)
Ellen Holdorf(チーフ・レジストラー)

2015年10月28日(水)
Anthology Film Archives
32 2nd Ave, New York, NY 10003
John Klacsmann(アーキビスト)

2015年10月29日(木)
Residency Unlimited (RU)
360 Court Street #4, Brooklyn , NY 11231
Sebastien Sanz de Santamaria(オペレーションズ・ディレクター)
Julie Rich(ディレクター・アシスタント)

以上 敬称略

3. 調査研究の内容、成果

A) 調査研究課題の細目

以下①から③を中心に、映像記録撮影を行いながら、各施設の実務担当者へインタビューを行った。その際、メディア考古学的視点で重要な過去の事例や、未来のデジタル・アーカイブの可能性や予測とともに話を伺った。

①デジタル・アーカイブやメディア・コンサベーションの現況

②問題点、改善したい点

③今後の課題や計画

B) 調査研究の成果

実務担当者へ直接インタビューを行ったことで、先の①から③について詳しい情報を得ることができ、意見交換を行えた。詳細は以下になる。

①デジタル・アーカイブやメディア・コンサベーションの現況

外部会社や開発業者との共同作業

多くの施設が外部の会社や開発業者と共同で業務を進めている。The New York Public Library for the Performing Arts, Jerome Robbins Dance Division, Moving Image Archive (以下 Jerome Robbins Dance Division)は、映像のデジタル・アーカイブの公開や管理の一部をBrightcove社へ委託し、施設内のデジタル・アーキビストとBrightcove社とで連携し進めている。

MoMAのメディア・コンサベーション部門は、開発業者のArtefactual Systems社とともに、デジタル作品の保存や管理のためのオープンソース・ソフトウェア「Binder」11http://www.moma.org/explore/inside_out/2015/05/13/open-sourcing-momas-digital-vaultを共同開発した。現行のものは予算制約の中で開発を主導したMoMA用に作られているため、他の施設が導入する場合にはシステム開発が必要になる。現在は、開発メンバーでありMoMAメディア・コンサバターのBen Fino-Radinが中心となりGitHubを利用しながら改良を進め、利用者のフォーラムを定期的に開くなど導入のための敷居を下げる努力をしているようだ。

同社が開発したオープンソースのデジタル・プリザベーション・システム「Archivematica」もMoMAをはじめ様々な施設や機関に活用されている。

未来に向けてのメディア・コンサベーション

作家が存命のうちに作品に関する情報をできるだけ得ることが、未来に向けて重要になると各施設のデジタル・アーキビストやコンサベーション担当者がコメントしていた。

例えば、現在MoMAのメディア・コンサベーション部門が、作品の修復や保存に向けてリサーチを行っている作品の一つが古橋悌二《LOVERS―永遠の恋人たち》(1994年)だ。1995年にMoMAのキュレーターであったBarbara Londonによる展覧会“Video Spaces: Eight Installations” 22http://www.moma.org/interactives/exhibitions/1995/videospaces/videospaces.htmlで展示された作品だが、1995年に古橋悌二が死去した後、1998年にMoMAのコレクションとして収蔵された。当時はMoMAにメディア・コンサバターがおらず、今となっては作品に関する情報が限られ、長い期間、適切な形で起動されていない状況にあった。しかし現在、MoMAのBen Fino-Radinが教鞭をとるクラスの学生が同作品を研究しており、今後の展示や作品の保存に向け、ドキュメント化を進めている。この作品に使用されているコンピュータは1993年製で、作品を動かすプログラムのソースコードをMoMAは保有していなかったが、リバース・エンジニアリングによって、そのプログラムの内容を一般的なドキュメントへと書き出すことに成功している。将来も作品を起動し展示していけるように、古橋悌二とともにダムタイプを結成したダムタイプの他のメンバーのフィードバックを聞きながら今現在進行中だ。

また、数年、あるいは数十年後、どの情報が誰にとって重要になるかは分からないので、MoMAアーキビストのMichelle Harveyや同施設のシニア・デジタル・イメージ・アーキビストJennifer Sellarによれば、作家とのやりとりや学芸員のメモなど全ての資料をアーカイブしているそうだ。

同時に忘れてはならないのは、将来に向けての作品の保存を考えるという時に、施設側の意見やメソッドばかりが優先されるのではなく、アーティスト側の見解や提案にも注意を向ける必要がある。

インタラクティブ・アートを制作するRafael Lozano-Hemmerがアーティストからの視点でメディアを使った作品の保存に関し意見や提案 33https://github.com/antimodular/Best-practices-for-conservation-of-media-art/をしている。本調査中、bitforms galleryでちょうどRafael Lozano-Hemmerの展覧会が開催されていたので足を運んだ。bitforms galleryは実験的な作品を発表するギャラリーとして話題に上っていた(2015年7月から8月に開催された“Memory Burn”ではexonemoが出品している)。

また、インターネット・アートを制作するRafaël Rozendaalに会う機会があった。9月にMoMAで先のRafael Lozano-Hemmerらとメディア・コンサベーションをテーマにトークを行ったそうだ。制作側と保存側とのコミュニケーションや意見交換が着実に進んでいるようだった。

実務担当者同士のネットワーク

各施設の実務担当者と話してみると、市内のデジタル・アーキビストやメディア・コンサバター同士が有機的なネットワークで繋がり情報交換をしていることに気づいた。

例えば、Whitney Museum of American Art (以下 Whitney)のアーカイブス部門マネージャーのTara Hartは、前職のNew MuseumにおいてMoMAのBen Fino-Radinと同僚であり、またBen Fino-RadinはRhizomeでも働いていたことがあり、Rhizomeのデジタル・コンサバターのDragan Espenschiedと過去に同僚で、現在も施設間を超えて共同プロジェクトを進めているそうだ。

全体的に新しい場を求めてプロジェクト単位で施設間を移動して働く人達の割合が多く、それが結果として施設横断型のプロジェクトが立ち上がる源泉となっている。非公式な場での情報共有や意見交換を行う機会が東京に比べ格段に多いことも、担当者同士の交流やネットワーク形成に繋がっているようだ。

また、The Metropolitan Museum of Art (以下 MET)での調査では、インタビュー以外にTime-Based Media Working Groupのスタッフ・ランチに加わり、情報交換を行った。このグループは部門横断的に数十人のメンバーから構成され、デジタル作品の保存や管理について日々リサーチや情報共有を行っている。これまで自身がNTTインターコミュニケーション・センター[ICC]で担当した映像デジタル・アーカイブ「HIVE」についての関心も多く寄せられ、紹介を行った。HIVEは、2003年にドミニク・チェンによって、そのコンセプトが確立され、著作者自身が著作権のレベルをコントロールできる「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」を採用している。METのデジタル・メディア部門のNeal Stimlerはクリエイティブ・コモンズの活用に関心があるとのことだった。

経験の場と雇用

各施設内での会話にNYU Tisch School of the Arts, Department of Cinema Studies, Moving Image Archiving and Preservation Program (以下 MIAP)が頻繁に挙がった。

MIAPは2003年に設立された2年間の修士プログラムで、外部の美術館や関連機関のコレクションに関する多様なプロジェクトに実務的に取り組むことで、デジタル・アーカイブやプリザベーションのためのデジタル技術やマネージメント・スキルを習得する。毎年10人程の卒業生を送り出し、デジタル・アーキビストやコンサバターにとって代表的なキャリアパスとなっている。

ここ数年、アメリカ議会図書館が展開しているプログラムの一つに、「National Digital Stewardship Residency」がある。学生が美術館や図書館などの施設でデジタル・アーカイブの実地経験を積むことができるレジデンシー型プログラムである。MIAPからも毎年数名の卒業生が選ばれ、Smithsonian InstitutionやCarnegie Hallで経験を積んでいるが、MIAPディレクターのDan Streibleによると、1年間のプログラムが終了した後も各施設が正規職員として学生を雇用するケースが多いとのことである。

MIAPの卒業生の大半は、公的機関、美術館、非営利組織などで働くケースが多いそうだが、民間企業のコンサバターやアーキビストとして雇用を獲得するケースもあるようだ。ゲームに詳しい学生が、直接ゲーム会社にデジタル・アーカイブの重要性を訴えて就職した例や、ある学生はDavid Byrne (Talking Heads)のオーディオ・ビジュアル・コレクションのアーカイブ化を卒業プロジェクトとして取り組み、その後David Byrneへ大規模なデジタル・アーカイブ化のプロジェクトを提案し、フルタイムで雇われた例などがあった。

学生自身がニーズを発見して市場を開拓するなど、起業家精神に満ちた活動や研究が奨励されていて、結果として雇用や発展的なプロジェクトを生み出している。

助成制度の活用

国や慈善団体の助成制度を獲得し、多くの施設が劣化の進んだ磁気テープやフィルムのコレクションのデジタル化に危機意識を持って取り組んでいる。

例えば、BETACAM、DVCAM、VHSなどのデジタル・ファイル化や保存のためのコピーは施設内で対応可能であるケースが多いが、Umaticやフィルムなどインハウスでの対応が難しいメディアについては、外部の専門会社やラボにアウトソーシングをしてデジタル化を進めている。しかし、大量に保管されたメディアを全てデジタル化するには莫大なコストがかかるため、助成金を獲得し、優先順位をつけた上で進めている。

詳細は、②の「劣化し失われつつあるメディア」の項で触れたい。

また、デジタル化やプリザベーションで必要になる古い編集機器などについても助成金によって入手している施設が多かった。

②問題点、改善したい点

人員不足

どこの施設も共通の問題として挙げられるのは、実務を担当するスタッフの不足である。

最もスタッフが多かったのはThe New York Philharmonic Leon Levy Digital Archives (以下 NY Phil Digital Archives) 44http://archives.nyphil.orgで、同団体のデジタル・アーカイブの設立を推進したアーキビストでヒストリアンのBarbara Hawsを含めて関連業務を担当する正規職員が3名の他、パートタイム・スタッフとインターンがそれぞれ数名在籍していた。

MoMAのメディア・コンサベーション部門とJerome Robbins Dance Divisionは、それぞれ3名体制であったが、どちらも莫大なコレクションに対する仕事の量を考えると人員がもっと必要な状況であった。

その他の施設は、 1)1名体制、2)以前は担当者がいたが今現在はいない、 3)担当者が近々配置の予定、 4)公式の担当者はいないが関連業務を兼務しているスタッフがいる、のいずれかであった。

少人数ながらもデジタル・アーカイブの公開に取り組んでいるResidency Unlimitedは、公式のデジタル・アーキビストは不在だが、オペレーション・ディレクターのSebastien Sanz de Santamariaが専門の仕事と兼務し、施設内で開催した一部のパブリック・イベントの記録映像をVimeo 55https://vimeo.com/resunlimitedで紹介している。

劣化し失われつつあるメディア

磁気テープの加水分解による劣化「Sticky-Shed Syndrome」は、現在、多くの施設にとって大きな問題となっている。ダメージの激しいUmaticやフィルムなどのメディアはたった一度の再生でも完全に失われてしまう危険性があるからだ。

Jerome Robbins Dance Divisionでは、劣化したテープを依然多く抱えているが、来館者が視聴を行えないメディアが大量にあることは公共図書館としても問題であるので、デジタル化のためにNational Historical Publications & Records Commission (NHPRC) に2年間の助成金を申請し獲得した。今後、優先順位をつけて、早急にデジタル化を進めていく予定とのことである。

Electronic Arts Intermix (以下 EAI)は、New York State Council on the Artsからの助成金を受け、3,000作品以上あるコレクションのデジタル化を進めている。既に2,000作品以上のデジタル化が完了し、コレクション全てのデジタル化を今後も行っていく予定だ。

Anthology Film Archivesは、1970年から1975年に収集した330タイトルのフィルム“Essential Cinema”66http://anthologyfilmarchives.org/about/essential-cinemaについては、プリザベーションのため、全てのコピーを保管している。そのEssential Cinemaを含め、現在では全部で約900タイトルがあり、プリザベーション用やサブマスター・コピーとともにデジタル化も進めているところだが、アーキビストのJohn Klacsmannによれば、契約しているフィルム・ラボが4つしかなく、デジタル化には費用がかかるため一気に取りかかることは難しく、やはり優先順位を検討しながら取り組んでいるとのことだ。

NY Phil Digital Archivesでもデジタル化を進行中だが、Barbara Hawsによれば、コンディションのよいDATプレイヤーは既にほとんど存在せず、脆弱なDATの取り扱いに特に苦労しているそうだ。

物理的ストレージの限界とクラウド・サービス

2012年10月のハリケーン・サンディの大被害に見舞われたEyebeamは、チェルシー地区からブルックリンへ場所を移し活動を行っている。ハリケーンで浸水したメディアは、MIAP、Anthology Film Archives、MoMA、Rhizomeなどの協力を得て救出を行った。多くのメディアの損失を被ったことがきっかけとなり、アーカイブ管理の重要性に気づき、アーカイブのクラウド化などについても検討を始めたそうだ。現在はEyebeamにデジタル・アーカイブの担当者は不在だが、劣化しているメディアやストレージも多く、デジタル化については常に意識しているようだ。
NY Phil Digital Archivesは、ハリケーンなどの災害からビデオ・テープなどを守るため、ニューヨーク北部の倉庫でも一部管理をしている。
その他のいくつかの施設もオンサイトはスペースが逼迫しているため、ニュージャージー州やロングアイランドのオフサイトに古いメディアやストレージの管理のために倉庫を借りていた。
また、施設内の部門間でのファイル共有に、「Google Drive」や「Dropbox」などのクラウド・サービスを利用している例が見られた。施設内のサーバや個人のコンピュータ、ハードドライブにファイルを保管するよりも、セキュリティ対策が講じられたクラウド・サービスを使う方が安全であると判断し導入している例が多く、今後の導入を検討中の施設も多かった。

正確な情報の管理と維持

訪問したほとんどの美術館が、施設のコレクション管理にGallery Systems社の「The Museum System」(以下 TMS)を使用していた。

MoMAのアーカイブス部門、METのメディア・プロダクション部門とデジタル・メディア部門、Whitneyのエデュケーション・リソーシズ部門の各担当者が共通して話題にした問題点は、過去から現在に渡る莫大なメタデータをTMSのみで正確に管理し維持していくことはなかなか困難という点であった。アクセス、及び編集権限を特定の人に限ることで正しい情報が誤った情報へ簡単に上書きされないように工夫などはしているが、過去に遡って誤った情報を訂正することは難しいため、初めて入力する時点で正確な情報を入力する必要がある。

Whitneyのエデュケーション・リソーシズ部門マネージャーのDina Helalは、オーディオ・データやデジタル化した映像も含めWhitney全体の情報管理をTMS一つでできれば良いと考えているが、現時点のTMSは作品に対する関連資料としてオーディオと映像を同時に管理することができないため(開発会社に依頼して施設に合ったカスタマイズなどは可能かもしれないが)、TMSの他に別途Excelのスプレッドシートを使用して属人的に管理をしている。未来に向けてより総合的な管理システムを見つけたいとDina Helalは話していた。

METのメディア・プロダクション担当のRobin Schwalbが、この項に関連するユニークなエピソードを聞かせてくれた。Schwalbは1981年にMETのシアター・チームのマネージャーとして雇われ、元々は映写士だった。着任してすぐにフィルムのコレクションの目録をチェックしたところ、目録のタイトルと保管場所が一致していないことが判明し、整理が必要になった。毎日のようにフィルム上映があり、どの棚に何のタイトルがあるかを正確に知っていないと仕事が務まらないからだ。そのようにして日々整理を続けているうちに誰よりもフィルムの管理に詳しくなり、次第にフィルム・アーキビストとなり、現在ではボーン・デジタルも扱うメディア・アーキビストとして仕事をしている。

インターネット・アートの保存

Rhizomeは1996年からインターネット上のアートの保存にフォーカスし活動を行ってきた。Rhizomeのデジタル・コンサバターDragan Espenschiedに、インターネット・アートの保存やその問題について、制作したソフトウェアやツールとともに伺った。

インターネット・アートは、OSやブラウザのバージョンが次々と更新されてしまう関係で、時代とともにアクセスできない作品が増えていく。またその一方で、新しい作品はプログラムによるクローリングが不可能なセミクローズドなソーシャル・ネットワーク上や、動画共有サイト上にあることも多く、技術的にアーカイブ化が困難だ。

例えば、Alli Coatesの“AMERICAN REFLEXXX”というYouTube上に発表されたパフォーマンス・ビデオ 77https://youtu.be/bXn1xavynj8があるが、ビデオそのものが作品ではなく、そのビデオを視聴した人々のコメントを含め、インターネット上で起きている現象全体が作品で、保存対象となる。ソーシャルメディアや動画共有サービスなどのプラットフォームを利用した作品は、突然映像の公開が停止になったり、サービス提供側がサービス自体を中止するなど、喪失する可能性があるため、いかに限りなくリアルタイムにアーカイブを行うことができるかが鍵となってくる。

このような課題からRhizomeは、閲覧したウェブサイトの記録と再生を可能にする「Webrecorder」88https://webrecorder.io を開発した。ある映像作品に何千件ものコメントがついている場合の対処など、今後も改善すべき点はあるが、オープンソースで公開されているので、今後も改良の余地がある。これまで内部でテスト中であったが、ちょうどインタビューの数日前にパブリックにリリースされた。同じく10月中旬にオープンソースでリリースされた「エミュレーション・ソフトウェア」も、古いOSやブラウザ、CD-ROMなどで動作する作品の保存に考えられたツールである。

③今後の課題や計画

システムの改良と処理スピードの向上

MoMAのメディア・コンサベーション部門では独自開発したシステムやワークフロー 99http://www.moma.org/explore/inside_out/2015/04/14/momas-digital-art-vaultがある。要約すると、デジタル作品がどのように制作されプログラムされているかなどを評価分析し、今後、最適な方法で保存するために独自のフォーマットでドキュメントを作成して作品のマテリアルとともにパッケージ化する。そしてロングアイランドにある保管施設へそのパッケージ・データを送信し格納保管するという流れだ。現時点ではパッケージ・データの送信にはかなりの時間を要し、このシステムが完成して蓄積していたデータ(30テラバイト分)を初めて送信した時は2ヶ月半もかかったそうだ。長時間の映像作品などを含め、送信すべきパッケージの数は増えていくことが確実なので、今後は転送のために計算機の処理スピードをあげる必要があるとのことだ。

新しいシステムやツールの開発

Jerome Robbins Dance DivisionのディレクターTanisha Jonesは、公開している映像アーカイブ 1010http://digitalcollections.nypl.org/dancevideo上で、よりダイナミックな映像再生を実現できればと考えリサーチを進めていた。映像全編を視聴しなくても、特定の色の衣装を着たダンサーが踊るシーンのみを抽出させるなど、ある条件の下、複数の映像から横断的に特定のシーンを抽出検索できるような再生機能やツールを開発していきたいとのことだ。

2045年には迎えるとされるシンギュラリティについては、Googleの写真アプリの自動認識システムや、アマゾンのレコメンド技術が現在においてもまだ十分ではないことを例に実務担当者の多くが懐疑的な意見を持っていた。

MIAPのDan Streibleは、今後のテクノロジーの発展にともない、サイバー犯罪なども今以上に盛んになる可能性はあるが、Jim Lindnerが発案した「SAMMA System」のような画期的な自動装置の誕生を例に、今後はロボットが映像のメタデータを自動生成するなどマシンが生成するアーカイブや手法も発明されるだろうと語っていた。

NY Phil Digital ArchivesのBarbara Hawsは、今後ますますデジタル・データを扱うことが増え、アーキビストやデジタル・アーキビスト、ライブラリアン、ヒストリアンなどが一つに統合されるのではないかとコメントしていた。

アートとエンジニアリングの壁と教育

RhizomeのDragan Espenschiedは、多くの施設がアート施設という役割だけではなく、様々なリサーチや開発を同時に行う研究施設のような形へ変化することが重要と考えているようだ。現在は、TMSをはじめとするアーカイブ・システムやメディア・ストレージ・システムを導入する方法が一般的だが、時代にそぐわない点も多分にあるので、このようなツールを使うだけではなく、開発や改良する側に多くの施設関係者が参加する必要があると述べている。アートとエンジニアリングの間にコミュニティの壁があるが、今後は両方に明るい人が必要になるだろうとのことである。

MIAPでも、今後よりいっそうボーン・デジタルを扱うことが増えると予想しており、時代に応じてカリキュラムも徐々に変え、情報学やウェブ・アプリケーション、オープンソース・ソフトウェアに関する教育をカリキュラムに取り入れている。最先端の状況に関しては外部の専門家を講師として招き、ワークショップなども頻繁に行っているそうだ。

教育のための新しい映像配信モデル

EAIのディストリビューション・マネージャーのRebecca Clemanは、iPhoneなどからEAIがディストリビューションしている全映像作品を視聴できるような、教育のための新しいストリーミング・サービス・モデルを検討中だった。例えば、YouTubeのような著作権侵害が起こりやすい動画共有サービス上での配信や、容易にコピーが可能なDVDなどのメディアでの貸し出しはEAIにとって最適モデルとはいえない。また、海賊版をはじめ違法コピーの流布は本来アクセスしたいものへのアクセス経路が無いことで生じやすいという一面があるため、今後はNetflixのような購読型モデルでのストリーミング・サービスを展開することが海賊版の妨げにもなると考えているようだ。国際的に展開する場合には、国によって著作権法や検閲が異なるため調整が必要になる。

複層的なデジタル・アーカイブとそれらの公開方法

The Museum of Arts and Designは、展覧会関連のトーク・イベントや教育プログラムの記録映像やオーディオをデジタル・アーカイブ化し公開してきた 1111http://www.madmuseum.org/media/video

今現在は、デジタル・アーキビストが不在とのことだったが、AVコーディネーターのCarson Parishが中心となり、3,000以上あるMADのパーマネント・コレクションのための新しいデジタル・アーカイブの実現に向けて、準備をしている。

Whitneyではエデュケーション・リソーシズ部門が、「Watch and Listen」1212http://whitney.org/WatchAndListenという映像やオーディオのデジタル・アーカイブを担当し公開している。物理的な映像関連のメディアや紙資料は同施設のアーカイブス部門が管理している。アーカイブス部門は現時点ではデジタルなプロジェクトは行っていないが、5月にNew MuseumからWhitneyに来たばかりのマネージャーのTara Hartは、Whitneyの前身の「Whitney Studio Club」のドキュメンテーション・フィルムや、1930年以降の展覧会資料など、デジタル化すべき貴重資料が多く保有されているので、近い将来プロジェクトを展開し、いずれ全てオンラインでも閲覧や視聴ができるようにしたいとのことだ。今後は一つの施設において複数の多様なアーカイブが同時に展開することも増えていくだろう。

また、MoMAにはデジタル・メディア部門が担当している、展覧会やパブリック・イベントの記録映像やオーディオを視聴できる「MoMA Multimedia」1313http://www.moma.org/explore/multimediaがある。ディレクターのShannon Darroughによれば、第一に広報的な目的で公開しているため、現在、映像の公開方法について検討を重ねているそうだ。「MoMA Multimedia」は、現行のウェブサイトではトップページの「Explore」メニューから訪れることができるが、例えば、それらの映像を展覧会の紹介ページの中で関連映像としてピックアップして掲載していく方がより自然で、また関心を持って視聴してもらえるのではないかとのことだ。

NY Phil Digital Archivesは、現時点では、コンサート・プログラム、楽譜、写真、社外文書が検索可能だが、将来的にはオーディオと映像もオンラインでの公開を予定している。現在はそれらの最適な公開方法を検討中だ。何よりもサウンドの質に力を入れているため、サウンドの次に映像という順序で進めていくようだ。

他施設とのコラボレーションとアーカイブの共有

Jerome Robbins Dance DivisionのTanisha Jonesは、現在どこの施設も技術上、同じような問題を抱えているので、他の施設と共同で効果的な改善を目指し、コラボレーションや、米国内に限らず海外の施設ともアーカイブの共有などができないかと話していた。

MIAPは、実際に海外の教育機関や公的施設のアーカイブ・プロジェクトにも携わっている。現在はガーナ大学とデジタル・アーカイブ化を行う「Audiovisual Preservation Exchange」というプロジェクトや、アルゼンチンのTeatro Colónから磁気テープなどの保存について依頼を受けたので学生を派遣するなど活発に他施設と交流しているそうだ。

民間企業への提案

MIAPは、美術館や図書館などでのアーカイブ化の成功例を基に今後はプライベート・セクターへ向けて、デジタル・アーカイブ化の必要性を訴える活動や、アーキビストやコンサバターの重要性を広く提唱する活動も積極的に行い、アーキビストとコンサバターの潜在的なニーズを発見してビジネスとしても開拓していくことに力を入れていく予定だ。

また、映画研究者でニューヨーク大学の教授であったRobert Sklarの遺族が、Cinema Studiesのためにスカラーシップを設立した。Sklarは1980年代に“Fantasy League Baseball”というメジャーリーグ(以下 MLB)のシミュレーション・ゲームを作った一人として野球関係者の間では特に知られている。MLBは、大量のオーディオやフィルムのアーカイブを保有しているので、彼の名前を冠したMLBのアーカイブ・プロジェクトをぜひ今後実現したいとMIAPディレクターのDan Streibleは話していた。

C) 調査研究の成果の活用計画

本調査研究成果とこれまでの実地経験を総合的に活かし、国内外のデジタル・アーカイブ化に取り組んでいきたい。具体的には、実務担当者間の情報共有や議論などを行うことができる場の形成や、国内のデジタル・アーカイブ化を進める施設や機関との連携、図書館をはじめとする関連組織との情報共有などを行っていきたい。それらの活動を通じて、将来的には現行の芸術分野に限らず、デジタル・アーカイブ化が必要となる新しい芸術領域やプライベート・セクターにも知見を共有していきたい。

4. 研修国の芸術界の現況、特徴、文化芸術行政等についての情報

New York Archive Week 2015

10月14日から、ニューヨーク中の様々なアーカイブ・コミュニティの活動が紹介される「New York Archive Week 2015」1414http://www.nycarchivists.orgが開催された。このイベントは1979年に設立された非営利組織「The Archivists Round Table of Metropolitan New York, Inc. (A.R.T.)」による主催で、ニューヨークの活動団体や企業との連携によって、ニューヨーク市内の至る場所で、アーカイブをテーマに専門家のみならず市民に開かれたイベントが開催されるものだ。調査の合間に、以下3つのイベントに参加した。

① 10月19日に「LA MAMA Experimental Theatre Club」1515http://lamama.orgでビデオ・テープのアーカイブに関するパネル・ディスカッション「LA MAMA — Preserving The Videotaped Record of 1970s-Era」が開かれた。同施設は上演されてきた実験的な演劇やパフォーマンスのフィルムやビデオを多数保有しており、小さな施設がいかに効果的にアーカイブを構築し、また新しい世代にアーカイブの重要性を啓蒙していくかということが主題となった。登壇者にはLA MAMAのディレクターの他、アーカイブ化を一緒に進めているMIAPの学生や教員、MoMAのメディア・コンサバターが含まれ、ニューヨーク市内のアーカイブ担当者同士の強い繋がりが確認できた。

② 10月20日にニューヨーク市立大学大学院センターで開催されたワークショップ「Archival Research Introduction」に参加した。ニューヨークの様々なアーカイブや資料を効率よく探す方法や、図書館や美術館が管理するアーカイブを地域ごとに検索できるツール「ArchiveGrid」1616https://beta.worldcat.org/archivegrid/などが紹介された。

また、ニューヨーク歴史協会のオンライン目録やデータベースなどを使って、講師の指定したキーワードを基に参加者各々が実際に資料を検索する演習も行われ、一般市民と思われる参加者より、「短い時間の中でオンライン目録やデータベースを横断的に使用することはハードルが高い」との感想が聞かれた。技術的には改善余地があるようである。

③ 10月21日にJewish History Centerで開催された「Symposium : Archives and Architecture」という建築分野のアーカイブ・プロジェクトに関するシンポジウムに参加した。MIAPに在籍するShu-Wen Linと「Reversible Destiny Foundation」1717www.reversibledestiny.orgのSheung Tang Lukによるプレゼンテーションでは、ニューヨークを拠点に1970年代から活動を行ってきた荒川修作とマドリン・ギンズの建築が紹介された。アーカイブとインタラクティブなバーチャル・リアリティ技術を使った実験的試みが発表され、新しい技術によってより厳密にアーティストの思想や制作の意図を保護し、表現する可能性などが提案された。

The Barbarian Group

「The Barbarian Group」1818http://barbariangroup.comの創設者で会長のBenjamin Palmerと会う機会がありオフィスを訪ねた。ダイナミックなインタラクティブ広告などを手掛ける同企業は、アーティストの作品を購入するだけでなくアーティストの活動を積極的に奨励し、クリエイティブ・テクノロジストとして雇用されながら作品制作する社員が在籍していた。アーティストにとってメンターのような支援者として認識されており、新しいタイプの芸術支援者として感じられた。連日実験的なパフォーマンスを行っている「The Kitchen」1919http://thekitchen.orgの取締役も務めている。

ニューヨーク市内の状況

Highline 2020http://www.thehighline.orgが完成し、その後の開発や不動産市場バブルの影響により家賃が高騰し、チェルシー地区にあったいくつかのギャラリーがロウアー・イースト・サイドやブルックリンへ移動していた。

現在、ロウアー・イースト・サイドの地下にソーラー・システムを用いた公園を作る「Lowline計画」2121http://www.thelowline.org が2020年に向けて進行中である。

※本報告は、2015年12月に文化庁へ提出した調査報告書を基とした修正版である。

※脚注のURL情報は全て2015年12月時点のものである。現時点では閲覧できないウェブサイトやウェブページが含まれているかもしれないが変更せず記載する。